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Today's topic No. 396
  2020/06/18


歌を手掛かりに知る、
  もう一つのアメリカの姿

 「ブルーグラスはいったい何を歌っているのか。何げない歌詞の中に隠されたアメリカの真の姿を探ろうと、この本を書きました。きっと、目が開かれるはずです。」(東理夫)


 





歌を手掛かりに知る、
  もう一つのアメリカの姿
●BOOK-58 コンプリート版『アメリカは歌う』東理夫著(作品社)(本体\4,200-)\4,620- 送料\520-

文──片山 明
 熱心なアメリカ音楽のファンの方なら、「アメリカは歌う」(2010年版)を既に持ち、なおかつ今回ご紹介する「コンプリート版 アメリカは歌う」(2019年11月)も早々と購入、あるいはウォントリストに入れている方もおられることと思う。先のバージョンが292頁、コンプリート版はズシリと重い846頁。価格もほぼ倍になっている。

 しかし、もし価格を理由に購入をためらう方がいたとしたら、ぜひ日頃の飲食店での散財を少し控えてでも再購入を、と強く推したい。

 もちろん初めて本書を知る、特に若い人たちには、ずっと傍らに置いておけば心強い指南書となる1冊だろう。

 アメリカ音楽に出会い、自ら演奏あるいは歌ってみたいと思ったなら、歌詞にある世界と歌に託された真実と向き合う必要が必ず出てくる。それを知ろうとするプロセスは貴重で、なおかつ素敵な時間になるに違いないのだから。

 帯に「アメリカ音楽史の決定版!」とある通り、本書は第一部『荒野は歌う』、第二部『戦場は歌う』、第三部『北行列車に乗って』、第四部『女たちは歌う』という構成からなる。

 各パート(部)、それに続くチャプター(章)まで、コンテンツだけでも先行版「アメリカは歌う」に一層細かく手を加えたものとなっていて、それらを目で追っていくだけで自然と歌、曲が脳内に流れ出してくる。

 そう、日頃ブルーグラスやカントリー、オールドタイムに親しんでいる方なら一度ならず耳にしたことがある歌が、この本からいっぱい聴こえてくるはずだ。

 ホーボー、ランブリン・ボーイ、そしてトレイン・ソング、レイルロードマン…、そして独立戦争や南北戦争だけにとどまらない、アメリカが背負い続ける、現在もなお宿命のように関わる戦争と、そこから生まれ、また歌い継がれる反戦歌の数々。

 また、ニグロ・スピリチュアルに秘められたもの、抑圧されてきた女たち、失恋の歌、立ち上がる女…等々。

 通り一遍のラブソングと思い込んでいた歌の裏側にある心の叫びや残酷。

 戦争/反戦、事故や殺人など、日本と違い、タブーとされるようなテーマを伴った歌がヒットチャートを賑わす、その矛盾を東さんは解いていく。

 何気なく聴いていた歌の表情が一変する。

 「あとがきにかえて」とされた東さんの文には、「増補改訂版のつもりで書き始めたが、その後新しく書きたいことがどんどん加わって、まったく別の本のようになってしまった…」と、により、書かずにはいれらなかった理由が述べられている。

 また、昔から馴染んできた歌を口ずさみみながら、なんとなく腑に落ちない、座りの悪い言葉や疑問が残ること。

 なぜそう歌われるのか、そして、人はどうしてそのような歌を必要とするのか。

 誰に向けて歌われているのか。こうした疑問を抱いている方は、著者のみならず案外多いのではないか。

 歌に込められた言葉を手繰り寄せ、改めて耳を傾けていけば、「もう一つのアメリカ」が見えてくる……と、これはそんな本である。

 急がず、ゆっくりと時間をかけ、何度も頁を繰りたい。

東理夫(ひがし・みちお)
 1941年生まれ。作家・ブルーグラス奏者。学生時代からカントリー音楽のファンで、テネシー州名誉市民の称号を持つ。アメリカ文化への造詣が深く、ミステリーから音楽・料理まで幅広い知識を活かして様々な分野で執筆を続けている。著書に『スペンサーの料理』『湘南』(早川書房)、『ケンタッキー・バーボン紀行』(東京書房)、『マティーニからはじまる夜』(実業之日本社)、『エルヴィス・プレスリー』(文春新書)、『アメリカは歌う』『アメリカは食べる』(作品社)など。訳書にF・X・トゥール『ミリオンダラー・ベイビー』、スティーヴ・ホデル『ブラック・ダリアの真実』、ジョージ・クルーニー&グラント・へスロヴ『グッドナイト&グッドラック』(いずれもハヤカワ文庫)など。(本書より)

片山明 ライター
アメリカ音楽好きが嵩じて家族と共に米国NY州ウッドストックに3年ほど暮らし、その体験をもとにした著書『小さな町の小さなライブハウスから』がある。現在はムーンシャイナー誌への執筆のほか、フォーク系、オールドタイム系のライブ、イベントも主催している。



『アメリカは食べる』東理夫著(作品社) 定価3,800円(税別)
 東さんの著書では同じ出版社からもう一冊「アメリカは食べる。「アメリカ食文化の謎をめぐる旅」(2015 年)が出ている。こちらも、ケイジャンからファーストフードまで、手にするだけで満腹になりそうな分厚い大書だが、食だけでない、読書中、たえずアメリカ音楽が聞こえてくるような中身である。こちらもお勧めする。


**MOON SHINER 2020年4月号より**
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